低侵襲婦人科手術センターホーム 婦人科悪性疾患に対する腹腔鏡下手術

婦人科低侵襲手術について

婦人科悪性疾患に対する腹腔鏡下手術

腹腔鏡下婦人科悪性腫瘍手術について

婦人科領域の悪性腫瘍に対する内視鏡手術は、外科領域、泌尿器科領域に比較して、国内での導入は遅れているのが現状です。大腸、胃、肺、前立腺などの悪性疾患に対して、腹腔鏡下手術が国内でも保険適応になっているなかで、婦人科領域では、2014年4月に、初期子宮体がん、2018年4月に子宮頸がんに対する腹腔鏡下手術が保険診療として許可されました。


子宮体がんに対する腹腔鏡下手術

海外での状況は、子宮体がんの腹腔鏡下手術に対する、6個の無作為試験の報告があります。それらの報告を総括すると、子宮体がんの外科的治療に腹腔鏡を導入した場合、デメリットとしては、手術時間が延長すること、腹腔鏡に習熟することが必要であることがあげられていますが、メリットとしては、創部が小さいため、術後疼痛が緩和され、早期離床が可能であること、出血量・輸血リスクの減少、および、術後合併症が低下することが指摘されています。


子宮頸がんに対する腹腔鏡下手術

子宮頸がんにおいては、まだ、無作為の臨床試験はありませんが、腹腔鏡下手術における子宮頸がんの治療は可能であり、出血量の減少、早期離床の促進などのメリットは体がんと同様であると考えられています。骨盤内の細かな部位を認識しながら手術を行う必要がある子宮頸がんの手術は、腹腔鏡あるいはロボット支援下手術が適している疾患です。神経障害を減らす工夫(腹腔鏡下神経温存広汎子宮全摘術)が多数報告さてている中で、技術を必要とされる術式ですが、当院では腹腔鏡下神経温存広汎子宮全摘術も施行しています。
腹腔鏡下広汎子宮全摘術は、2014年12月から先進医療として認可されました。当院では、この手術を自費診療で行っていましたが、2018年4月から健康保険が適用されることになりました。


卵巣がんに対する腹腔鏡下手術

卵巣がんに関しては、腫瘍が破綻した場合を危惧して、婦人科腫瘍の中では、最も腹腔鏡下手術の導入が難しいと考えられている腫瘍です。しかし、卵巣がんに対しても、診断的腹腔鏡を使用することも行われ、初期の卵巣がんの治療成績も、子宮体がん、子宮頸がん同様に報告される様になってきました。腫瘍切除のみ開腹手術で行い、根治術を腹腔鏡下手術で追加していく治療方法や、診断的腹腔鏡なども試みられています。


当院での婦人科悪性腫瘍腹腔鏡下手術の導入経緯

婦人科悪性腫瘍への腹腔鏡下手術の導入は、当院開院前からの経験を生かして行っています。内視鏡トレーニングラボでの研修、他院での腹腔鏡下悪性腫瘍手術の研修、協力病院における腹腔鏡下悪性腫瘍手術導入の支援などをとおして、腹腔鏡下悪性腫瘍手術の症例を経験してきましたが、これらの経験でえられた技術と知識をもとに、婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術を施行しています。当院は、2012年8月に開院し、それ以来、一般的な婦人科手術の96%が腹腔鏡下手術で施行可能な施設として診療を行っています。婦人科腫瘍のなかでも子宮体がんだけは先進医療として認められていましたが、上記のような準備を経て、2013年5月より、先進医療の腹腔鏡下子宮体がん根治手術実施施設として、当院が承認されていました。2013年11月現在、全国で34施設が施設認定されていましたが、当院はその一つです。2014年4月からは、腹腔鏡下子宮体がん根治術は保険適応となっています。一方、子宮頸がんに対する腹腔鏡下手術はしばらく自費診療でしたが、上記のように、2014年12月から先進医療として承認され、いままでの経験を生かして、当院は2018年4月より、先進医療として腹腔鏡下広汎子宮全摘術を施行する施設の一つとなっています。


腹腔鏡下婦人科悪性腫瘍の手術手技について

腹腔鏡と開腹の違い

従来の開腹手術を腹腔鏡下手術に置き換えることで、手術切開創は非常に小さくなります。通常開腹術では15~25センチ切開(下腹部正中~剣状突起下まで)を行った上で手術を施行します。腹腔鏡下手術では、1箇所0.5~1.5センチ程度の切開部(トロッカー孔)が4~8カ所程度となります。触診ができないという欠点はありますが、良好な視野がえられることと、術後の痛みが少なく、早期回復と必要に応じた早期からの追加治療が可能となります。大きな開腹手術との違いは、出血量の減少と術後腸閉塞の頻度の低下と考えられています。


子宮体がんに対する腹腔鏡下手術(保険あるいは自費)

はじめに子宮体がんの治療です。当院では、子宮体部への浸潤とリンパ節転移が画層診断(MRI、CT、PET-CTなど)で否定的であれば、子宮全摘術・両側付属器摘出術を腹腔鏡下で施行します。術前画像診断、あるいは術中の迅速病理検査で想定以上にがん浸潤がある場合や、リンパ節転移の可能性がある場合は骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節郭清術を腹腔鏡下あるいは開腹手術で追加します。従来の開腹手術では大きな腹部切開が必要となるリンパ節郭清が必要となるような患者さんにとっては、腹腔鏡下手術で手術を行うと、腸閉塞頻度の低下と出血量の低下のメリットがあると考えています。出血が多くなる場合や、用手的に直接触れることが必要な場合、および、子宮筋腫などにより、子宮自体が大きく子宮体部の破砕が必要になりそうな場合は、腹部に切開を追加して、子宮体部を体外に取り出すこともあります。


子宮頸がんに対する腹腔鏡下手術(保険あるいは自費)

子宮頸がんの外科的治療も、当院では腹腔鏡下手術での治療が可能です(腹腔鏡下広汎子宮全摘術)。広汎子宮全摘術(開腹)では従来から神経損傷による排尿障害が問題となっていました。そのような問題を改善するために、手術のやり方が工夫され、神経温存広汎子宮全摘術の有効性が国内外で多数報告されています。腹腔鏡の視野を生かした、患者さんのQOLを考慮したこの手術を当院では施行しています。また、当院では、通常の腹腔鏡下手術のみならず、ダビンチ(ロボット)を使用した腹腔鏡下手術も施行しています。


腹腔鏡下広汎子宮頸部摘出術(腹腔鏡下トラケレクトミー)

初期子宮頸がんでは、病期の進行状況により子宮を温存できる場合があります。適応に関しては、開腹手術と同様で、腫瘍の大きさや広がりをMRI、PET-CTなどで評価した上で、適応を判断しています。開腹手術、腟式、腹腔鏡などいろいろな手技でなされていますが、当院では腹腔鏡下手術での施行が可能です。妊娠分娩に関する問題、再発の問題などまだまだ今後の検討が必要な手技とされていますので、患者さんと十分にお話しさせていただくことが必要です。


センチネルリンパ節生検

悪性疾患に対して手術を行う際、一定の頻度でリンパ浮腫が発症します。これを防ぐ、もしくは軽減させるために、これまでさまざまな工夫が試みられてきました。センチネルリンパ節生検はその一つで、最初に転移しそうなリンパ節を確実に摘出し、そこに転移がなければ周辺のリンパ節に転移がないと判断し、正常なリンパ組織を温存するという考え方です。これによりリンパ浮腫発症の抑制が期待できます。すでに乳がんや悪性黒色腫では一般診療として行われており、婦人科領域でも国内の一部の施設で臨床研究として行われています。国内の数施設(函館市立病院・東北大学病院・鹿児島大学病院・北野病院など)では、条件を満たす初期子宮頸がんに対する、リンパ節郭清の省略も開始されています。当院でも2015年よりセンチネル生検の手技を導入し、技術的に十分に成熟しましたので、2017年より一定の条件を満たす初期の子宮頸がんに対し、骨盤リンパ節の郭清を省略しています。

当院は、子宮頸がん・子宮体がんに対して腹腔鏡手術という低侵襲な治療を提供し、さらにセンチネルリンパ節生検を導入してリンパ浮腫の発症予防にも取り組んでいる、臨床的に先進的な施設となっています。


ロボット支援下手術について

ロボット支援下手術(ダヴィンチR)は現在、世界中の臨床現場で導入されています。約70%は米国ですが、それ以外に欧州や日本を初めとするアジアにも導入されています。心臓外科手術(冠動脈バイパス手術など)、泌尿器科手術(前立腺切除術)、婦人科手術(子宮頸がん根治術など)など多くの術式が行われるとともに、FDAという米国の厚労省に相当する施設からも上記の術式をダヴィンチ手術で行うことが認可されています。ダヴィンチ手術は基本的に腹腔鏡下手術と同様ですが、より繊細な動きが得意な医療機器を用いた手術です。当院では開院以来、泌尿器科においてダヴィンチによる根治的前立腺切除術が行われ、神奈川県内では最も多くダヴィンチ手術が行われている施設の一つとなっています。米国ではダヴィンチ手術は婦人科悪性腫瘍手術(子宮頸がん、子宮体がん)にも行われ、腹腔鏡と同等の成績が得られています。当院婦人科においても、ダヴィンチ手術を子宮頸がん、子宮体がんに導入開始をいたしました。腹腔鏡とダヴィンチ手術の比較には議論がありますが、お腹の傷の大きさは腹腔鏡よりやや大きくなりますが、腹部の痛みも出血量も少ない傾向があります。当院でも患者さんの状態により、腹腔鏡下手術、ダヴィンチ手術、および開腹手術が選べるように対応を行っています。