腹腔鏡下手術|内視鏡手術

腹腔鏡下手術とは

3~15mmの非常に小さな傷から、腹腔鏡というカメラを入れ、テレビに映ったおなかの中を観ながら、専用の手術器具を遠隔操作する手術方法です。

  • 腹腔鏡下手術のイメージ腹腔鏡下手術のイメージ
  • おなかの中を観察するには膨らませることが必要ですが、これにはつり上げ法と気腹法という方法があります。当院では気腹法といって二酸化炭素のガスをおなかの中に入れる方法で主に行っています。腹腔鏡下手術は日本では1990年頃から一般に普及し、現在では器具の進歩と医師の技術の向上により、ほとんどすべての婦人科疾患に適応されるようになりました。当院では腹部から行う婦人科手術のうち、約96%が腹腔鏡下手術となっています。

実際には、おなかの3~6カ所に小さな穴をあけて手術を行います。おへその1か所とおなかの下の方に3か所の穴を開けるのが標準的な切開の部位です。手術の種類によって穴の数と位置は少し異なります。単孔式/2孔式といってへそ1か所/+下腹1か所の傷で行う手術もあります。また、癒着がある場合や悪性腫瘍の手術などでは複数の切開部位が追加されます。

腹腔鏡下手術の分野では、最近15年ほどで急速に診療機器の性能と精度が高くなりました。腹腔内を観察するカメラの解像度は驚くべき進歩で、テレビのハイビジョン化とともに高画質が当たり前になっています。

これにともない、腹腔鏡によって治療を行う疾患の適応範囲も広がってきました。はじめは卵巣腫瘍や子宮筋腫などの良性疾患が腹腔鏡下手術の治療対象でしたが、1990年代より悪性腫瘍にも腹腔鏡が使用され始め、現在では子宮体がんや子宮頸がんの腹腔鏡による治療も一部の施設で開始されるに至っています。

対象疾患

良性疾患

卵巣嚢腫・子宮筋腫子宮内膜症・多嚢胞性卵巣症候群

悪性疾患

子宮頸がん子宮体がん卵巣がんなどの子宮悪性腫瘍

腹腔鏡下手術のメリット

腹腔鏡下手術が適応とされる病気は、不妊症検査、卵巣嚢腫、子宮筋腫、子宮内膜症など良性婦人科疾患のほぼすべてにわたっています。また、子宮体がん、子宮頸がんなどの婦人科悪性腫瘍に対しても当院では腹腔鏡下手術での治療を行っています。

  • おなかを大きく切る従来の手術に比べて、傷も目立たたず、痛みも少なく、入院日数が短いため社会復帰も早くできる利点があります。しかし、おなかの中の状況によっては、数センチの小切開を加えて腹腔鏡と開腹手術を同時に行ったり、また、手術後や炎症性の病気のためおなかのなかで腸などの癒着が強い状況下では開腹手術に移行することもあります。

    手術で治療をするご病状によって開腹手術に移行する率は異なりますが、その頻度は低く約0.3%となっております。

    • 従来の開腹手術従来の開腹手術
    • 腹腔鏡の創部腹腔鏡の創部
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    ※上図は一般的な腹腔鏡の配置であり、術式によって配置や創部の数は変わります。

    腹腔鏡と開腹の違い

    従来の開腹手術を腹腔鏡下手術に置き換えることで、手術切開創は非常に小さくなります。通常開腹術では15~25センチ切開(下腹部正中~剣状突起下まで)を行った上で手術を施行します。腹腔鏡下手術では、1箇所0.5~1.5センチ程度の切開部(トロッカー孔)が4~8カ所程度となります。

    触診ができないという欠点はありますが、良好な視野がえられることと、術後の痛みが少なく、早期回復と必要に応じた早期からの追加治療が可能となります。大きな開腹手術との違いは、出血量の減少と術後腸閉塞の頻度の低下と考えられています。

    良性疾患への腹腔鏡下手術

    子宮筋腫、卵巣腫瘍、子宮内膜症などの疾患を中心に、良性疾患には広く腹腔鏡・子宮鏡などの内視鏡下手術で対応できる施設となっています。

    良性疾患の場合、症状がつらい方、今後の妊娠を希望している方など、ひとりひとりの患者さんによって、機能温存の程度を考慮しながら行うことが必要となってきています。ここでは、手術が適応となる症状のなかで、比較的頻度の高い症状への治療への対応をお示しします。

    月経困難症

    月経時の痛みの評価はとても難しく、子宮筋腫や子宮内膜症が原因となっている場合も多くあります。その中でも子宮内膜症への治療は、薬物と腹腔鏡下手術が大きな柱となっています。

    痛みを伴っている子宮内膜症の患者さんの中で、排便時や性交時に強い痛みを感じるなどの方は腹腔鏡による内膜症病巣切除が有効なことが多くあります。

    婦人科領域の腹腔鏡のなかでも、このような深部内膜症と呼ばれる領域の手術は比較的難易度が高いのですが、当院では、開院以前から内膜症の手術を多数経験してきた術者が複数いますので、対応が可能です。

    患者さんの症状や妊娠への希望、ご年齢などを考慮しながら手術の方法を調整し、薬物療法も選択しています。

    子宮筋腫

    子宮筋腫は子宮筋層を構成する平滑筋に発生する良性の腫瘍で、婦人科腫瘍性疾患の中で最も頻度が高い疾患です。

    多くは自覚症状が少なく、婦人科検診で偶然見つかることもあります。代表的な症状は月経量過多と月経痛で、月経の出血量が多くなって貧血やめまい、立ちくらみという症状が出ることがあります。

    子宮内膜症(膀胱内膜症、直腸内膜症)

    子宮内膜症の治療は、月経困難症の治療を伴う場合が多くあります。そのなかでも、外科治療が有効なのは、膀胱内膜症、尿管内膜症、および直腸内膜症といった、骨盤内の臓器に内膜症が進展した場合です。

    患者さんの症状、年齢、挙児希望の有無などを考慮しながら治療を進めて行きます。当院では、外科、泌尿器科と連携して、尿路系の内膜症(膀胱内膜症、尿管内膜症)および消化管系の内膜症(小腸、結腸、直腸など)も腹腔鏡あるいは腹腔鏡補助下の手術で対応しています。

    卵巣腫瘍

    卵巣腫瘍は卵巣が腫大しているものすべての総称です。一般的には腫瘍が小さい場合は無症状のことが多く、卵巣腫瘍があっても月経は順調なことが多いため、妊娠にもあまり影響しません。また、ほとんどは良性の腫瘍で、一部が悪性腫瘍(ガン)ということになります。さらに卵巣腫瘍では低悪性度群の腫瘍があり、ちょうど良性と悪性の中間のものとなります。

    悪性疾患に関する腹腔鏡下手術

    悪性疾患に関する腹腔鏡下手術は、婦人科領域では早期子宮体がんと早期子宮頚がんが保険収載されています。

    海外での子宮体がんに関する報告では、腹腔鏡と開腹手術を比較検討し、腹腔鏡は手術時間は延長するものの、再発率などは変わらず、出血量が少ないこと、社会復帰が早いこと、術後合併症が少ないことなどが指摘されていましたし、本邦でも多数の施設で子宮体がんに対する先進医療が行われていたことから、保険診療へ移行することとなりました。

    2014年の3月まで行われていた先進医療である、子宮体がんに対する腹腔鏡下手術は、20施設以上で行われていましたが、当院でも先進医療として施行していました。

    当院は2014年4月以降、腹腔鏡下子宮体がん手術の保険適応での治療が可能な施設として認可されています。(ただし、リンパ節を取る範囲が広い場合は自費になることもあります。)また、子宮頸がんに対しての手術は、無作為試験はないものの、出血量の減少や術後合併症の減少の可能性が高く、先進医療として施行していましたが、2018年4月より保険適用での治療が可能となりました。

    腹腔鏡下子宮頸がん手術(腹腔鏡下広汎子宮全摘術、腹腔鏡下準広汎子宮全摘術、腹腔鏡下広汎子宮頸部摘出術)は患者さんへの負担を減らす治療法であり、精細な視野を生かした精度が高く再現性のある治療方法として、当院では選択肢として提示しています。

    現在、治療方法の低侵襲化を目指して、センチネルリンパ節生検をとりいれた婦人科悪性腫瘍の治療を行っております。

    当院での婦人科悪性腫瘍腹腔鏡下手術の導入経緯

    婦人科悪性腫瘍への腹腔鏡下手術の導入は、当院開院前からの経験を生かして行っています。

    内視鏡トレーニングラボでの研修、他院での腹腔鏡下悪性腫瘍手術の研修、協力病院における腹腔鏡下悪性腫瘍手術導入の支援などを通して、腹腔鏡下悪性腫瘍手術の症例を経験してきましたが、これらの経験で得られた技術と知識をもとに、婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術を施行しています。

    当院は、2012年8月の開院以来、一般的な婦人科手術の96%が腹腔鏡下手術で施行可能な施設しており、現在、初期子宮体がん、初期子宮頸がんに対して、腹腔鏡での治療が可能な施設として登録されています。

    センチネルリンパ節生検

    悪性疾患に対して手術を行う際、一定の頻度でリンパ浮腫が発症します。これを防ぐ、もしくは軽減させるために、これまでさまざまな工夫が試みられてきました。

    センチネルリンパ節生検はその一つで、最初に転移しそうなリンパ節を確実に摘出し、そこに転移がなければ周辺のリンパ節に転移がないと判断し、正常なリンパ組織を温存するという考え方です。これによりリンパ浮腫発症の抑制が期待できます。

    すでに乳がんや悪性黒色腫では一般診療として行われており、婦人科領域でも国内の一部の施設で臨床研究として行われています。国内の数施設(函館市立病院・東北大学病院・鹿児島大学病院・九州大学病院・北野病院など)では、条件を満たす初期子宮頸がんに対する、リンパ節郭清の省略も開始されています。

    当院でも2015年よりセンチネル生検の手技を導入し、技術的に十分に成熟しましたので、一定の条件を満たす初期の子宮頸がん・子宮体がんに対し、センチネル生検を行っています。

    センチネルリンパ節生検

    当院は、子宮頸がん・子宮体がんに対して腹腔鏡手術という低侵襲な治療を提供し、さらにセンチネルリンパ節生検を導入してリンパ浮腫の発症予防にも取り組んでいる、臨床的に先進的な施設となっています。