腹腔鏡下手術の術式について|内視鏡手術

腹腔鏡下手術の各術式と比較対象となる治療法

婦人科疾患の治療にはいくつかの選択肢があります。手術という治療をお受けいただくにあたり、メリットとデメリットの比較をして有利な点があるという医学的な判断と、ご本人のご希望を丁寧にうかがい、更にその他の治療法と十分比較をした上で、手術による治療を決めさせていただきます。

術式によって、長期的な注意点や、候補となる手術以外の治療法がございますので、以下にご説明いたします。

子宮筋腫核出術

当院術者のデータでも、また過去の報告でも、子宮筋腫の切除によって不妊症の方は妊娠にいたる率が上昇する可能性が示されています。

しかし、一部の患者さんではおなかの中で癒着が生じることや、妊娠中あるいは分娩時の子宮破裂が報告されています。

きわめてまれに妊娠中あるいは陣痛発来時の子宮破裂という合併症を起こすことがあるとされていますので、妊娠された場合は原則として帝王切開による分娩をお願いしております。また、子宮筋腫はとても再発しやすい病気で、数年間で約30~40%の患者さんは再治療が必要になると報告されています。

卵巣嚢腫切除術

卵巣嚢腫の切除は、嚢腫が皮様嚢腫であるか、あるいは子宮内膜症嚢胞(チョコレート嚢腫)か、および、初めての手術か再手術かによって、その後の状態が変わってくることがあります。

  • 一般的に、卵巣嚢腫の切除によって、卵巣機能が失われることは極めてまれです。また、子宮内膜症の病巣は完全に切除した方が再発率が低く、症状の改善率が高いとされており、私たちも原則としてその考え方にのっとって手術をしております。しかし卵巣機能を極力温存したい場合には、完全な嚢腫の切除ではなく、再発覚悟で一部を切除、残りの部分を焼灼(表面を焼くのみ)とすることもあります。

    多房性内膜症嚢腫や両側嚢腫、再手術の場合などでは、手術後に卵巣機能が低下し、場合によっては、排卵しなくなってしまうこともゼロではありません。卵巣機能の温存には最大限の注意を払っておりますが、患者さんごとによく説明させていただいた上で、手術の方法についてご相談させていただきます。

    付属器切除術

    卵巣および卵管の切除は、卵巣腫瘍が悪性化するリスクの高い40歳以上のご年齢の卵巣腫瘍、急速に大きさが変化してきている卵巣腫瘍、あるいは、卵巣や卵管がねじれて急にお腹が痛くなった患者さんに行うことがある手術です。悪性化(がん化)のリスクはご年齢が高いほどより高くなりますので、ご年齢や今後の妊娠へのご希望などを考慮してこの手術を選択することになります。

  • 付属器切除術は、卵巣嚢腫切除と同様に、明らかに悪性疾患ということが事前に想定される場合以外は腹腔鏡下手術の良い適応となります。

    尿管という尿の通り道と卵巣の血管の距離が近いため、腹腔鏡下手術では、尿管をよく確認してから手術を行っています。

    また、茎捻転という卵巣嚢腫がねじれた状態の場合、ねじれを戻した状態で、再度嚢腫切除を行うこともあります。

    卵巣は片側だけ残れば、女性ホルモンの分泌は十分ですが、体外受精などの不妊治療を希望される方の場合、機能温存を優先することもあり、個別に相談しながら術式を決めることになります。

    子宮全摘術

    子宮を摘出する適応になる方は、子宮筋腫・子宮頚癌・子宮体癌など多数の疾患があります。子宮をとる手術をすることで、良性疾患の場合、子宮筋腫の再発はほぼなくなりますし、子宮腺筋症による骨盤痛なども消失します。また、保存的な治療と異なり、子宮にある腫瘍が悪性疾患かどうかを診断することができます。

    子宮を摘出することが治療の選択肢となった場合、ご病気が何かによって、適応となる治療法も異なってきます。一般的に腹腔鏡が適応となる頻度の高い、子宮筋腫および子宮内膜症の場合に比較対象となる治療法についてご説明します。

    子宮動脈塞栓術および収束超音波治療は子宮を体内に残す治療方法です。おなかに傷をつくることなく、圧迫症状や月経困難症などの症状は改善させることは可能です。

    一方、病理検査ができないため、腫瘍が悪性かどうかは判断できません。また、卵巣機能に関しては子宮動脈塞栓術と子宮全摘術では、どちらも約1%程度の方に卵巣機能の低下がおこる可能性があります。

    開腹手術との比較では、腹腔鏡下手術の方が約1.5倍から2倍の手術時間がかかり、困難な場合は数時間にいたることもありますが、入院期間は開腹手術より腹腔鏡下手術の方が短期ですみます(開腹:約10日間、腹腔鏡:約5日間)。

    術後の痛みはどちらもある程度はありますが、内視鏡手術の方が痛みは少なくすみます。子宮を摘出する手術の合併症で大きなものには、尿管という尿の通り道に関するトラブルがあります。

    開腹手術と腹腔鏡下手術のどちらでも起こる可能性がありますが、腹腔鏡下手術の方が、手術も含めた追加治療になる頻度が高いと報告されています。

    子宮内膜症や大きな子宮筋腫の方の場合、この様な合併症頻度をできるだけ低くするために、尿の通り道を造影検査で確認したり、手術前から尿管に管を入れておくことで、手術中に確認しやすくすることもあります。

    子宮腺筋症切除術

    子宮腺筋症は月経困難症や慢性骨盤痛を伴うことが多い病気です。子宮腺筋症で症状(月経困難症、性交時痛、排便時痛)がとても強い方には、外科的治療を行うことがあります。

    妊娠を希望されない方で、薬物治療に反応されない方の場合、子宮全摘術が良い適応です。しかし、今後、妊娠を希望される方などで、子宮を残すことを希望される方には、子宮腺筋症切除術という手術方法を選択することもあります。

    手術前のMRI検査をうけていただき、手術適応かどうか、また、手術方法が腹腔鏡下手術か開腹手術のどちらを選択するかについて検討させていただきます。腺筋症だけ切除する治療法は、治療後の効果について評価した大規模な研究がないのが現状ですが、治療させていただいた患者さんは、月経困難症・性交時痛・排便時痛は著明に改善する傾向があります。

    しかし、再発率が高いという問題や、また、妊娠を希望された場合、妊娠中の子宮破裂という母児ともに危険がおよぶ合併症が約10~30%に起こる可能性も指摘されています。このあたりをよくご相談させていただいた上で、検討いたします。

    子宮内膜症病巣除去術

    慢性骨盤痛、特に性交痛や排便痛を伴う重症子宮内膜症の方には、癒着した子宮と直腸の剥離開放、深部内膜症病巣の除去が有効です。また証明はされていませんが、内膜症性不妊の方にも有効である可能性があります。

    薬物療法で効果が得られない方や挙児希望で上記のような疼痛が強い方がこの手術の適応となります。しかし重症子宮内膜症では繊維化や臓器同士の強固な癒着を認めることが多く、手術が難航することも少なくありません。

    特に深部内膜症病巣切除は、尿管・直腸・排尿機能に関わる神経などの損傷リスクが高まるため、この手術の選択は慎重に検討しています。

    稀ですが膀胱子宮内膜症、直腸子宮内膜症が存在する場合、膀胱や直腸の切除を検討する場合や、術中に初めてそれら臓器への内膜症の浸潤が判明して急遽追加切除となる場合もあります。

    内膜症病巣の完全除去のために、やむを得ない尿管・膀胱・直腸・神経損傷が起こることがあり得ます。これは術中判明して修復の手術をすることもあれば、術後少し経過してから初めて損傷が分かることもあり(遅発性穿孔など)、稀ではありますが再手術が必要となることもあります。

    多のう胞性卵巣焼灼術(卵巣多孔術)

    排卵誘発薬(クロミフェンなど)を用いても排卵に至らない不妊症の方に推奨される外科的治療です。卵巣の表面に小さな穴を数多く空けることで、術後自然排卵率は30~90%、術後1年での累積妊娠率は50~80%と良好で、自然排卵に至らなかった場合でも排卵誘発薬に対する反応性の改善が見込まれます。

    仙骨腟固定術

    膀胱・子宮・直腸・腟などが腟口から脱出する状態を骨盤臓器脱と呼びます。女性の骨盤底の構造的弱点が背景にあり、出産・加齢などにより骨盤底の筋肉(骨盤底筋)が緩み、支持組織が損傷されることが原因と考えられています。米国で女性が80歳まで生きると、約1割がこの種の状況で手術を受けると報告されています。

    • 仙骨腟固定術
    • 手術に用いられるメッシュはポリプロピレンの糸を編んでつくった骨盤臓器脱手術専用の素材で作られております。同じ素材からできたメッシュは外科での鼡径ヘルニアや腹壁ヘルニアの治療に長く使用され、身体への安全性が確認されています。

    骨盤臓器脱に対する手術方法は下垂した臓器をもう一度補強して支持するものです。その一つとして従来から行われてきた元々体にあった組織を摘出・縫合する方法があります(子宮全摘術、腟壁形成術など)。

    長い伝統のある術式ですが、本来ある組織は脆弱(ぜいじゃく)であるため、それらを使った方法は再発率が高いという問題が指摘されてきました。

    そこでより強固に臓器を補強する材料として「メッシュ」を使うことによって、これまでの方法よりも再発率を抑えることができるようになりました。  術後早期の合併症として排尿困難が術後晩期の合併症として腹圧性尿失禁(骨盤臓器脱を治療することによって尿が漏れやすくなること)が出現する可能性があります(17.8%)。

    特に咳やくしゃみ、お腹に力をいれた場合の尿失禁が起こることが多く、これは手術前から尿道を締める筋肉(尿道括約筋)が緩んでいることが原因と考えられます。

    骨盤底筋訓練によって改善することが多いのですが、改善が認められない場合には尿失禁に対する治療を追加することがあります。また、膀胱脱の再発のため数年の経過の中で再手術が必要になる可能性があります(6.2%)。